この記事は TDD Advent Calendar jp: 2011 の 14 日目です.

この記事の概要

  • TDD で開発することで設計上の問題点に気づきやすくなる
  • Singleton はグローバル変数である
  • Singleton の使用はできる限り避けるべきである

テスタビリティを意識しよう

TDD では, 原則としてユニットテストを書いてから実際のコードを実装します.
なので, 自然と「テストのしやすさ (テスタビリティ)」を意識して実装することになります.

そして, TDD においては一般的に, テスタビリティを意識することで, 設計が改善されるとされています.

オブジェクト指向には難しい概念がたくさん登場します.
単一責任の原則 (Single Responsibility Principle) とか, 関心事の分離 (Separation of Concerns)とか, 依存性の注入 (Dependency Injection) とか…
これらを, 書籍などで読むだけで理解できた, という人は少ないのではないでしょうか.
少なくとも私は, TDD を実践することで初めて, これらの原則の言いたいことを実感し, 理解につなげることができたと考えています.

オブジェクト指向設計の大切なことは TDD に学んだ, と言っても過言ではありません.
あまりにもたくさんのことを学んだので, それらをここで全て紹介するのは無理なことです.
なので, 今回はその中から一つだけ, 簡単なものを紹介しようと思います.

この記事では, 明日から意識できるポイントとして, 例えば, Singleton を避ける, ということについて紹介します.

Singleton とは

いわゆる Gang of Four の書籍で紹介されているデザインパターンのひとつで, 以下のようなことを実現するために利用されます.

  • あるクラスのインスタンスが 1 つであることを保証する
  • 常に同一へのインスタンスを取得するためのアクセスポイントを提供する

数あるデザインパターンの中でも比較的理解しやすく, 実装も簡単であるため, これを最初に覚えたという方も多いでしょう.
私自身もそうであったように思います.

Singleton パターンを適用してみる

例えば, PHP においては以下のように実装されます.
ここでは, ありがちな例として, アプリケーション中からグローバルに参照される Config (設定) クラスを作ってみましょう.

要点は以下の 3 点です.

  • コンストラクタ (__construct メソッド) を private にすることで, new を禁止している
  • 代わりに getInstance() という static メソッドでオブジェクトの生成をする
  • getInstance() では初回だけ Config オブジェクトを生成して返すが, 次回以降は最初に作ったオブジェクトをそのまま返す

Singleton をテストする

次に Config オブジェクトをテストするコードを書いてみましょう.
テスティングフレームワークには PHPUnit を使用します.

このふたつのテストはいずれも成功します.

Green

テストは問題無く通った

ですが, 記述する順序を逆にしてみると, いとも簡単に失敗してしまいます.

Red

テストは壊れてしまった

一体, どうしてでしょうか.

Singleton はグローバル変数である

クラスを定義して, クラスメソッドを通してのアクセスを行っていますが, Config クラスのオブジェクトはグローバルに参照可能です.
本来ローカルスコープであるはずのメソッド間を超えて, 状態が共有されてしまいます.
そのため, 一度設定値 foo がセットされると, その後のテストで「foo がセットされていない状態」をテストすることができなくなってしまいました.

このように, Singleton パターンを適用したクラスのオブジェクトは, 本質的にはほとんどグローバル変数なのです.

テストは新鮮なうちに

ユニットテストを書く上で大切なことは, 出来る限りクリーンな状態で始めることです.

グローバル変数, データベース, ファイルシステムなどは, 状態として考えることができます.
コードやテストがこれらの状態に依存してしまうと, 状態の変化に弱くなり, 壊れやすくなります.

Singleton でない通常のクラスであれば, 複数のテストメソッド間で状態を共有されません.
スコープがテストメソッドごとに区切られるので, テスト対象のオブジェクトはガベージコレクションにより, 二度と再利用されないためです.
(もちろん, テストケースクラスのインスタンス変数などに入れてしまえば別ですが)

Singleton では, このガベージコレクションによる状態のクリアが起こらないため, 前のテストコンテキストを引きずったまま, 次のテストを実行することになってしまいます.
複数のテストが影響し合うことによりメンテナンス性が下がるだけでなく, 暗黙的なコンテキストの増大により, 理解もしづらくなります.

さらなる問題

Config 自体はとてもシンプルなので, さほど問題にはならないかもしれません.
ですが, Config::getInstance() がアプリケーションのあちこちで呼び出されていたらどうでしょうか.

例えば, ウェブアプリケーションにおいて, アプリケーションそれ自体を表す Application クラスについて考えてみます.

Application は設定によりデバッグモードの On/Off が切り替えられるとしましょう.
その設定は, Config オブジェクトが保持することになります.

デバッグモードであるかどうかは, Application オブジェクトの isDebug() メソッドで確認できます.
今度はそれをテストするコードを書いてみましょう.

そしてこのテストが通るように Application クラスを実装します.

これで, テストは問題なく通ります.
以下は Config のテストもあわせて実行した結果です.

Green

テストは問題無く通った

ですが, さっきと同じで, このテストも順序を逆にすると失敗してしまいます.

Red

テストはまたしても壊れてしまった

原因は, 先ほど Config のテストが失敗したのと全く同じです.
既に debug という設定値が入ってしまっているため, false を明示的に値をセットしない限りは, デバッグする設定のままになります.

このように, Singleton で実装したクラスそれ自体だけでなく, それを呼び出すクラスにまで, テストのしにくさが伝染してしまう可能性があるのです.

処方箋 1: 状態を初期化できるようにする

Config クラスのテストしにくさは, 状態がクリーンでないことにありました.
そこで, init() メソッドを実装することで, 状態を初期化できるようにしてみます.

テストもこのように書き換えます.

変更点は, Config::getInstance() した後に, init() を呼び出すようにしている点のみです.

これにより, いずれのテストもクリーンな状態でテストが実行されることになったので, 例え順番を変えても失敗しなくなりました.
Application クラスにおいても, 同じアプローチを採ることで, テストの実行順序に依存することは無くなります.

処方箋 2: 依存性の注入 (Dependency Injection) の利用

とはいえ, これで問題が無くなったわけではありません.
この Application クラスには, Config というクラス名がハードコードされており, 2 つのクラスは密結合になってしまっています.

これでは, Config に似た動きをした別のクラス (例えば CachedConfig とか) を作っても, 差し替えるには全ての Config を書き換える必要が出てしまいます.

ではどうするか.
オブジェクト指向が本来持つモジュール性を活かすのであれば, 引数で Config オブジェクトを渡すことを検討しましょう.
ここでいう引数とは, コンストラクタ引数でも, メソッド引数のどちらでも構いません.

先ほどよりもややコードが増えてしまいましたが, Config クラスのハードコードが無くなりました.
Application と Config の間の結合は緩くなり, CachedConfig や YamlConfig など, 同じように振る舞う別クラスへの差し替えが容易になりました.
また, モックスタブを使ってのユニットテストも書きやすくなっています.

このように, 依存するオブジェクトのクラス名をハードコードするのではなく, 引数で渡すことを依存性の注入 (Dependency Injection) といいます.

ところで, クラス名のハードコードが問題になるのは, 何も Singleton だけの問題ではありません.
例え Singleton ではなくとも, new するクラス名をハードコードすれば, 同じようなことが問題になります.

とはいえ, Singleton を利用すると, getInstance() メソッドを利用した依存にしてしまいがちです.
出来る限り依存性の注入を利用し, クラス名をハードコードする箇所を最小限に留めることで, 後の改修時のコストを大幅に下げることができます.

処方箋 3: そのクラスは本当に Singleton なのか

あなたが今実装しようとしているクラスは, 本当に唯一なのでしょうか.
また, 通常唯一であるとしても, コンストラクタを private にしないと実現できないことなのでしょうか.

確かに, Singleton の「常に同一のインスタンスを返す」という特性は便利です.
ですが, 少なくとも私の経験においては, 「インスタンスが 1 つであることの保証」は, そんなに気張るほどのことでは無かったのではないか, と考えてしまいます.

また, 見方を変えれば, Singleton は, そのクラス本来の役割 (Config であれば設定の保持) とは別にもうひとつ, 「オブジェクト生成の管理」という, 全く違った責任を持ってしまっています.
これは, 単一責任の原則に違反していると言えるでしょう.

これをどう解決するか.
少々場当たり的ですが, 例えば Config と, その生成を責任とする ConfigManager に分割する, といったことが考えられます.

この実装自体はあまりオススメしませんが, とりあえず設定の保持 (Config) という責任と, 設定オブジェクト生成の管理 (ConfigManager) という責任を, 個別のクラスに分割することができました.
これにより, Config クラスのコンストラクタを private にするという縛りは無くとも, ConfigManager を利用する限りにおいては, 常に同一のインスタンスを得ることができるようになりました.

コンストラクタが使用できる以上は, オブジェクトの生成は自由になったので, テスト時は毎回オブジェクトを生成・破棄し, クリーンな状態でのテストが可能になりました.
もう init() は必要ありません.

テストメソッドごとにコンテキストが分割されたので, ガベージコレクション任せで安心してテストに集中することができるようになりました.

まとめ

Singleton の話ばかりしましたが, この記事で私が言いたいのは, TDD で開発することで設計上の問題点に気づきやすくなる, ということです.

TDD の実践から学べることは多いにあるので, まだやったことないという方には, まず趣味の開発でいいので, 軽い気持ちでやってみることをオススメします.
業務に TDD 自体を導入する前の段階でも, 設計について新たな目線を得ることができるので, 何かしら良い効果を得ることでしょう.

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